突然の病に侵され、教師の道を断念せざるを得なくなった元同僚 彼女が今も忘れられない「下校時間のある風景」【西岡正樹】
学校帰りの風景がいつまでも心に残った理由
◾️子どもたちが異様に積極的に発言していた理由
それから時々、4年3組の前を通る時、意識して教室の中を見るようになった。そして、気が付いたことがある。子どもたちが異様に積極的なのだ。話している時は堂々と話をするし、聴いている時も体中で反応する姿は、他のクラスでは見られない。どうしたらこんなクラスになるんだろう、と思うようになった。西田先生は東谷先生よりも子どもたちに話を聴きたいと思った。
東谷級の子どもたちは、基本男子はふてぶてしいし、女子はしっかりしている。何度か、子どもたちが下校している時につかまえて話をするのだが、その度に驚かされる。ある時、男の子に、
「私、東谷先生みたいな先生になれるかな」
と訊いたら
「自分らしい先生になれ!」
と一喝されたのにはびっくりした。
また、別の日、女の子と話をしている時のことだった。
「東谷先生みたいな先生が、この学校にあと3人ぐらい必要だよね」
話の流れの中で、女の子に言葉をかけたが、まさにその時に若い先生が来て、女の子との話は中断された。それでも、女の子は訊かれたことに応えないのは悪いと思ったのか、耳元にぽつりと囁いたのだ。
「東谷先生を目指すって、少し違うと思う」
4年3組の子ども一人ひとりから発せられる言葉に力があるから、不用意に質問すると返ってくる言葉に、こちらがドギマギしてしまう。
子どもたちの口から飛び出してくるこれらの言葉は、4年3組の子どもたちがいつも言われている言葉なのではないだろうか。きっとこの半年間、東谷先生は口酸っぱくして
「自分の思いや考えをきちんと持ちなさい、人の話を自分事として聴きなさい」
そう伝え続けたんだろうな。だから、子どもたちは自分の思いや考えをちゃんと言えるし、「人まねはだめだよ」って私に伝えられるのではないだろうか。そんなことを思いながら、「こんな子どもたちと授業したら面白いだろうな」と思う半面、「いやいや私には自分の予想を超えた子どもたちの言葉をすべて受けとめきれないだろうな」という思いが、フツフツと心の中から湧き上ってきた。